民事裁判の被告になった話⑤

 さて、民事裁判の被告になった訳ですが、早速司法書士に連絡しました。話が違うじゃないかと。すると司法書士の態度が変わりました。
「うーん、普通に考えて賠償金請求できないはずなんだけどなぁ。まぁ、こうなったら裁判するしかないけど、打ち合わせが大変だからあなたの勤務地の弁護士さんをつけて裁判やられたほうがいいよ」
と言われました。明らかに逃げようとしています。更に困るのは、この手の案件は手間のわりに弁護士報酬が少なく、受任してくれる弁護士がいないのです。医者は患者を選べないのですが、弁護士は儲からない案件を断る権利があるのです。これも初めて知りました。そこで、この司法書士を紹介してくれた不動産屋さんに相談しました。司法書士にとって不動産屋さんは仕事をくれるお客さんなので、力関係としては不動産屋さんが上になります。この不動産屋さんは大変いい人で、そういうことするなら今後一切あなたのところに仕事は出さないとまで言ってくださったようです。そして、司法書士の知り合いの弁護士がこの件を受任することになりました。

 

 しかし、ここで驚愕の事実が発覚します。弁護士曰く、
「お金は結果的には払わざるを得ない。」
震えました。今まで聞いてきた話と全く違います。更に裁判になったことで賠償金の要求額は倍になっていました。なぜ「結果的に」払わざるを得ないかと言うと、賠償金そのものは払わなくてもいいのだけれど、賃貸借契約は何もしないと10年毎に更新され、その期間は借主と貸主の同意が無いと契約を解除できないためです。つまり、借主が土地を返したくとも返せず、しかも地代は契約期間が切れるまで払い続けなければならないということです。確かに、残りの契約期間から逆算される地代の合計と賠償金額は一致します。この賠償額は見る人が見ればそういう事(賠償金は取れないけど、賃貸借契約を切れないんだよ)を示唆していることがわかるとのことでした。

 

 結局、弁護士同士で相談して(基本、同じ県では弁護士同士は顔見知りです)、当初の賠償金の5割増を支払うことで和解となりました。弁護士費用の合計は、当初の賠償金の2倍となりました。大敗です。しばらく私は大荒れでした。アパートの壁を殴りまくりました。妻は相当怖かっただろうと思います。しかし、当時の私にはこの事実を受け入れる器量はありませんでした。夏休み期間であったため、職場に行かなくて済んだのがせめてもの救いでした。

 

 何がこの大敗の原因だったのか。悪徳地主に弁護士が付いていたことは承知していたのに、こちらが弁護士ではなく司法書士に相談していたことです。想像以上に弁護士と司法書士の間には力の差がありました。また、弁護士に頼めばお金がかかるので、それは避けたいという思惑もありました。この甘さが大敗の最大の要因だったと思います。ちなみに、悪徳地主は地代の収入だけで暮らしており、それ以外の仕事はしていないので、当然この案件に集中できる環境でした。更には悪徳地主側についていた弁護士事務所は県の中でも手段を択ばないことで有名な所でした。すなわち戦う前から大敗は決まっていたと言えます。

 

「全力でやる覚悟を持てないなら喧嘩はするな」

これがこの件の教訓です。喉元過ぎれば熱さを忘れるですが、今になって思えばよい経験でした。トータルの出費はベンツのCクラス位に達しましたが、幸いにも蓄えがあったので、生活に支障は出ませんでした。それと、この経験を通じて、手元に現金を持っておくことの必要性を痛感しました。そんな訳で私は一生賃貸にすることを決めました。また、裁判になっていることは親戚も知っていたわけですが、助けてくれる人と助けてくれない人にスパッと別れました。助けてくれなかった人をどうこう言うつもりはありません。助けてくれた人の様な強く優しい人間に私もなりたいと思います。そして私が荒れまくっても最後まで励ましてくれた妻に感謝です。

おわり